長尾 晃一
Koichi Nagao

研究開発本部 サイエンスアフェアーズ統括部 トランスレーショナルサイエンス部 トランスレーショナル サイエンティスト

 

サイエンスの限界に挑み、「次世代の治療の当たり前」を創る

個別化医療の本格的な幕開け

私にとってサイエンスとは、「仮説に基づいて検証し、データを客観的に見て解釈をすること、またその繰り返しによって、わからないことをどんどん解明していくこと」と考えています。アストラゼネカは常に新しい技術やアイディアを積極的に取り入れ、最先端の医学的問題の解明にチャレンジしている会社です。私もアストラゼネカで働くひとりとして、日々最新のサイエンスに触れ、問題解決に挑めることをとてもエキサイティングに感じています。

かつての製薬業界は、たとえば感染症や生活習慣病など、患者数が多い疾患を対象とした薬剤を中心に開発を進めていました。しかし近年では、アンメット・メディカル・ニーズ(満たされない医療ニーズ)に対応するため、製薬会社はより細分化・高度化した疾患への医薬品の開発が求められるようになっています。さらに、医薬品に求められる有効性・安全性基準の厳格化や超高齢社会における医療費高騰による国民皆保険制度の持続可能性を心配する声の高まりなど、製薬業界を取り巻く環境も変化してきました。こうした疾患や社会のニーズに応えるため、製薬業界の研究開発は、万人に効く薬剤を追い求めるのではなく、効果が期待できる患者さんをより適切に特定する方法を見つけ出し、その患者さんにとって最も安全で高い効果が期待できる薬剤を創ることが主流になっています。個々の患者さんに最適な医療を提供する個別化医療の時代が本格的に到来しようとしているのです。

がん治療における個別化医療を大きく進展させた分子標的薬


がん治療で言えば、かつては手術や放射線治療しかありませんでしたが、20世紀後半にさまざまな抗がん剤が開発され、オンコロジー(腫瘍学)という言葉も生まれました。また、21世紀に入り、分子標的薬という、がん細胞の特定の部位にはたらく薬が次々と登場したことで個別化医療が可能になり、多くのがんで治療成績が向上しました。

アストラゼネカも肺がん領域において分子標的薬を開発し、2000年初頭に世界に先駆けて日本で初めて上市しています。この分子標的薬の治験で確認された患者グループ間における効果の違いを追究した結果、肺がん細胞の増殖にEGFR遺伝子が関与していることが明らかになりました。EGFRは、がん細胞が増殖するためのスイッチとなるタンパク質であり、EGFRを構成する遺伝子の一部に変異があると、がん細胞が増殖しやすくなります。現在はEGFR遺伝子以外にもさまざまな変異遺伝子の存在が明らかになってきており、遺伝子変異の可能性のある患者さんには投与前に遺伝子検査を受けた上で薬を使用してもらうことが治療の主流となっています。その先駆けとして、特定の遺伝子変異をもつ患者さんだけに薬を使ってもらうという治療を日本で初めて実現したアストラゼネカの分子標的薬が、現在の日本の個別化医療の進展に大きく貢献したと考えています。


従来の免疫機能のはたらきを高める免疫チェックポイント阻害薬


現在がん領域で注目されているのは、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤です。分子標的薬を含めた抗がん剤は、がん細胞を直接狙って作用する薬剤ですが、免疫チェックポイント阻害薬は、体内でがんと戦っている免疫細胞を活性化する抗体(異物から体を守るためにはたらくタンパク質の一種)を主成分とした抗体医薬品です。免疫チェックポイント阻害薬は、がんの種類や性質に依存せず、誰もが持っている免疫細胞を活性化することで効果を発揮するため、多くのがん患者さんが使用できる可能性があると考えられています。

アストラゼネカでも免疫チェックポイント阻害薬の開発を進めていますが、この薬剤は、異なる種類の免疫チェックポイント阻害剤との併用や抗がん剤との併用など、さまざまな併用療法が有効である可能性を有しており、このような新たな治療方法を解明していくことが、次のがん治療におけるチャレンジだと考えています。

協働を通じて新たなサイエンスの高みを目指す

アストラゼネカでは常に新しい技術やアイディアを積極的に取り入れ、最新の医療課題の解決に取り組んでいます。その一環として、研究機関での基礎研究(非臨床試験)の成果を医薬品の臨床開発に応用する「橋渡し研究」(トランスレーショナルリサーチ)を推進しています。橋渡し研究では、産学官が協力し、非臨床試験で既に得られている成果を臨床試験に応用することはもちろん、初めから臨床試験で期待する効果を想定し、その効果を得るための非臨床試験を企画、実行することも含まれます。世に出る前の新しい技術やデータに触れながら、異なる環境の研究者たちと協働することで、これまで思いもしなかった斬新なアイディアや方法がうみだされたときは、大きな喜びを感じます。

私にとってアストラゼネカで働くことは、社内外の優れた研究者とともに未知の事象の解明に挑むことです。自分の働きによって、これまでの治療に新たな価値を加え、新薬を待ち望む患者さんに貢献できる仕事は、私にとって大きなやりがいと誇りを感じさせてくれます。

患者さんの人生を変えるという当社のミッションに向かい、ともに邁進できる仲間をお待ちしています。